相手の仕事を奪い、チャンスを与える
優秀なディレクターは、指示に抜け漏れがなく先手を打った仕事を遂行することで、気が利く人だという印象を与えます。
しかしその”気が利く”ディレクションの本質は、優しさや親切心、マメさといったような感情や人間性に基づいたものではありません。 むしろ、感情から完全に切り離した行動原理として、組織の利益を最大化させるという目的のために「相手の仕事を奪い、チャンスを与える」というルールを機械的に徹底するのが優秀なディレクターの本質であると考えています。
本質的な仕事と、そうでない仕事(作業)
仕事の中には、チームやプロジェクトの目的に直接影響を与える「本質的な仕事」と、必要ではあるものの手間がかかるだけで本質的な価値に結びつかない「作業」があります。ディレクターとして重要なのは、この違いを正確に理解し、関係者全員がそのポジションに応じた本質的な仕事に集中できる環境を作ることです。
例えば、上司の仕事は意思決定をすることであって、判断材料を集めることではありません。上司が意思決定をする上で考えるべき戦略や方向性について、ディレクターもそれを理解した上で、事実に基づく自分の意見を出し、判断材料を用意しておくことで、上司は最終判断に集中できます。判断材料を集めるという、上司のポジションにとって本質的でない仕事(作業)を奪うことで、より多くの意思決定をするチャンスが生まれるため組織全体の利益が向上します。
部下の仕事は、与えられた職務の合格点を出し続けるであって、なぜその仕事をするのかを自分の頭で考えることではありません。部下が職務について合格点を出し続ける上で必要な具体的オペレーションについて、ディレクターが先に一歩踏み込み、「何をどうすればいいのか」「この仕事は何のために必要であるのか」をきちんと伝え、その仕事に集中する環境を用意しておくことで、部下は仕事の品質向上に集中できます。仕事に集中する環境をつくり、何のためにこの仕事をするのかを自分の頭で考えるという、部下のポジションにとって本質的でない作業(ぼんやり過ごす時間)を奪うことで、より多くの仕事を高品質でこなすチャンスが生まれるため組織全体の利益が向上します。
「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」
相手の仕事(作業)を奪いチャンスを与えるディレクションを目指すには、部下の成長も視野に入れなくてはなりません。一方で、ディレクターがどんなに頑張ったとしても部下を成長”させる”ことはできません。
「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」という有名な言葉がありますが、私はここから転じて「他人は変えられないが、他人は(勝手に)変わる」「部下は成長させられないが、部下は(勝手に)成長する」と考えています。
部下が成長することで、ディレクターの仕事も円滑になり、全体の成果が高まります。このことは多くの人は強く思っていることでもあるため、「部下の育成」といったキーワードのビジネス書が大量に平積みされています。しかし、私は本質的には部下を上司の手柄によって育成することは不可能であると考えています。部下は勝手に育つ・勝手に成長するのです。
部下が勝手に育つ環境をつくるのがディレクターや中間管理職の仕事であると考えます。単に教える(ティーチング)のではなく、部下が勝手に育つときのために導く(コーチング)ようなコミュニケーションを常に心がけておくことが、相手にチャンスを与えるディレクションだと考えます。
ルールを機械的に徹底することで「気が利く人だ」と勝手に思われる
気が利くディレクターには、なろうと思ってなれるものではありません。気が利く行動を取ろう!と思っても抽象度が高すぎて何のアクションプランも立ちません。「相手の仕事を奪うために、自分は何ができるのか」「相手にチャンスを与えるために、自分は何ができるのか」これを考えて機械的にどんどん実行していく。この行動ルールを徹底することで、結果的に相手が「この人は気が利くディレクターだ」という印象を持ってくれているだけなのです。